バングラデシュでの起業も落ち着いて、浄水器が動き出したある日、学校へ出かけた。
間もなく卒業式を迎える暖かな日差しが、校庭をやさしく包んでいた。
この3月で帰任する先生を中心にしばらく談笑しているうちに、
“西村さん!3年間お世話になった浄水器ですけど・・・・。アレ、レンタルとかリースとかを利用してもう少し安くなりませんかねぇ・・・・”という話が突然飛び出した。
“レンタルねぇ。ウン、ちょっと考えてみようか・・・・?”
日頃から「コスト的に少し高すぎるのでは・・・」と感じていた私は何かの閃めきを得たような感じがしながらそう応え、すぐに学校を後にした。
3年程まえからペットボトルやガロンボトルの製造販売を始め、今年から請われて逆浸透膜システムを採用した浄水器の販売を始めていた。
浄水器の代名詞として世界各地で評価を得、不純物質の95%以上をカットすると言われる濾過性能を持つ機械を採用するのは、砒素中毒の被害が国内で毎年大きな問題になるバングラデシュでは当然のことだった。しかし、0.0001ミクロンという超微細なフィルター(メンブレン)を使用して電子顕微鏡の世界の濾過性能を発揮する逆浸透膜システムの機械は、同時に高価なことで有名な機械でもあった。
おまけに、日本からバングラデシュに輸出しなければならず、その関税、航空運賃等の諸経費は製造コストの50%を超える高額なものになっていたのである。
そのコスト低減を図る為に、レンタル方式を利用出来ないか・・・・?。
当時は殆どの機械が買取であり、その顧客は現地に法人を持った日本企業が中心であった。駐在者は帰任の時期が来ればそのまま次の赴任者に引き継がれ、時間の経過とともにトータルコストは低減化され、年次のメンテナンス(フィルター交換、定期点検等)のみを支払う方法で使用頂いていた。一部、レンタルで使用頂いていた企業はゼネコンなどの期間が決まっていて、比較的コストに鷹揚な企業が多く、3年から5年の定まった期間使用が殆どであった。そしてそれらの企業は期間が終われば機械は廃棄処分にされるのが当たり前の処理だったのである。
簡単に考えれば、機械をご使用頂く場合にすべてをレンタル方式にし、そのレンタル期間を通常の3年を5年に、5年を7年にすればコストダウンは図れると考えられた。
しかし学校の先生方のように赴任期間がほゞ3年と決まっている所はどうなるか?その先生方はご家族のみならずお子様帯同の方も多い・・・・。
では、3年を1クールとして6年、9年というレンタル期間を設定したらどうなるか?
まず機械がそのような長期間の使用に耐え得るだろうか?
それでなくとも原水が極めて悪いバングラデシュである。フィルターを中心に使用されている各種のパーツが長期間耐えられるだろうか?パーツの交換は可能だが、そのコストが甚大なものにならないだろうか?メンテナンスは従来の価格を維持していけるだろうか?数々の不安は増幅するばかりであったが、“まァ、やってみなけりゃ判らない”という持ち前の楽天家ぶりがスタートの後押しをしてくれたのである。
そして、レンタル方式の浄水器設置は学校関係者(赴任されている先生方、若しくは児童・生徒のご父兄)を中心に広めようと考えた。それは、年々どこの国も、市販されている水の劣化が激しく、飲料水としては余りに酷い水が跋扈していたからである。少なくとも日本の将来を担う子供たちには良い水を飲んで欲しい、提供したい・・・。せめて学校では安定・安全・安心な水を飲んで欲しい・・・。そんな思いから各国の日本人学校への寄付を考え、行脚を開始したのである。
バングラデシュは昔から停電が多く(それは未だに解決されないインフラ未整備の極みである)停電の度に過電圧流が流れてアダプターの損傷が日常茶飯事だった。 まず、その解決を図らねばならない。 通常の安定器(スタビライザー)を設置しても、その品物自体の質が悪く思うように稼動しない。まずはその安定器を機械内部に設置することを考え、幾つかのメーカーを歩いた。小さな機械部分のその中に5センチ角程度の箱に納められたスタビライザーをセットしようという話である。そしてその安定器は電圧230Vの上下10%以内に安定供給できるものでなければならない。3ヶ月ほど掛かった後で、リレーメーカーのO社から“出来た!”の報告を得、それまでの不安を消す大きな勇気を得ることが出来たのである。
このリレーは後に“故障率1%以下”と威張れる弊社の機械製作の原動力となった。
インフラ未整備の発展途上国ではどこへ行っても必ず“電気”では泣かされたが、浄水器だけは全くその心配がなく、年を追うごとに“西村さんの所の機械は、全く故障知らずだね!”と褒められたものである。実際、“原水の汚れが原因でフィルターが目詰まりを起こした”程度のクレームは何回かはあったが、電源が原因になった電装部品のクレーム(フロートスイッチが壊れた、電磁弁が壊れたなど)はここ10年
を過ぎた現在、たった2回だけである。
最も難題であった電圧の問題は解決したが、同時に他の問題も細かく当たる必要があった。何しろ、長期間使う事が出来、故障しない、安全・安心できる機械を作らねばならないのだ。そこで、それらを弊社のポリシーとして確立すべく、その為に何が必要なのかを詳細に詰めることにした。
以上のポリシーの実施に当たってはかなりの困難が伴ったが、現在では下記のような実績を挙げられるようになり、今や絶対の自信をもって提供サービスをさせて頂いている。
こうして自信を持ったマシンを提供できるようになったが、今のあらゆる国・地域の現状を見るとまだまだ満足してはいけないと思わざるを得ない。 毎年大変な勢いで劣化し続けている水事情はいつか大きな瑕疵・禍根を残すかもしれないし、利益だけを求める不埒な業者が、既に跋扈しているコピー商品や偽物を世間を混乱させるかもしれない。そんなに大それた考えを持つわけではないが、同じ「水」という土俵にいる限り邦人の一助でありたいと考える。その為にはよりコストの削減を志向しなければならないし、海外で生活する邦人の多くの意見を伺ったり、指導を仰がねばならないと思う。そして、少しでも廉価に、安心できる、安全な水を多くの方々に提供し続けたいと考えるのである。(2010年1月20日)